体験

外国人観光客に京都で茶道体験。本物のお茶の心を。

外国人観光客に京都で茶道体験。本物のお茶の心を。

京都・金閣寺といえば言わずと知れた観光スポット。四季を通じて、国内外の観光客でにぎわう。Tea Ceremony Kotoはそこから歩いて2分ほど。「海外の観光客が気軽に『本物のお茶』を経験できる」といま注目の茶道体験教室である。

扉を開けると裏千家専任講師倉中梨恵さん(30)の自然な笑顔が迎えてくれた。友だちを招くような和やかな雰囲気で茶室に案内される。作法やしきたりといった堅苦しいことはとりあえず抜き。それでも、お茶室に入ると空気が引き締まる。

tea ceremony experience

この日参加したのはスイスから来た一家(ムッシュー&マダムと娘&息子)。息子さんは大阪の大学に留学中という。日本文化について知識があるらしいが、茶道は初めてだそうだ。「ジャパン初めて」といった表情の両親に心配そうな目を向けながら、小声で「トコノマはね・・」などささやいている。まずは「正座ってどう座るの」という難題に直面しつつも、未知の文化、茶道を経験したいというどきどきワクワクが伝わってくる。(正座できなくても大丈夫!ただ、「正座に挑戦したい」と思う人は多いようだ)

茶道体験

体験茶会はすべて英語。倉中さんが流暢な英語でにこやかにナビゲートしていく。このレクチャーがまず素晴らしい。単にお点前の作法に終始するのでなく、茶道の歴史(しかも明治時代以降まで!)から「和敬清寂」の概念、掛け軸の趣向、お道具の意味まで、日本人が聞いても大満足の内容になっている。深いテーマであるが、要領よくわかりやすい説明で、スイスからの一家はいつのまにか正座のことも忘れ身を乗り出して聴いていた。

お茶のいただきかたについても、なぜそういうことをするのか、言うのか、どういう気持を込めているのかをきちんと説明しながら仕草で示すため、非常にわかりやすい。ひととおり説明が終わったらいざお点前スタートとなるが、ムッシューは少し不安そう。隣の娘さんにひとつひとつ確認し、納得したと思ったら「足がしびれた」と苦笑いを浮かべた。マダムには息子さんが繰り返しフランス語で説明している。マダムはふん、ふん、と頷くが、息子さんのほうが「大丈夫かなぁ」と心配げだ。

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お点前が始まる。それまでざわざわしていたのが、ぴたりと静かになった。全員が倉中さんの一挙手一投足を見逃すまいというように凝視している。袱紗捌きにはとくにムッシューが「マジックを見ているようだ、美しい」と感嘆の声をあげた。倉中さんは所作をひとつひとつ英語で説明しながらお茶を点てる。一家はときどき小声で互いに聞いたり説明したりして頷きあっている。

練習したとおり、お互いに「御相伴いたします」「お先に」「頂戴いたします」の挨拶をかわし(英語で)、無事においしくお茶をいただくことができた。皆ほっとした表情。マダムは緊張が解けたのか「おいしいわ」と笑顔になった。

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次に、自分で点ててみましょう、ということに。倉中さんがひとりひとりにジェスチャーをまじえながら英語で説明していく。皆真剣そのものだ。先ほど見たときは何でもなく思えたのに、自分でやってみると茶筅がうまく扱えない!とあせる息子さん。意外とムッシューの手つきがよく、先生に褒められてうれしそうだ。「こんなふうにやるんだよ」といいたげな顔で娘さんの様子を見ている。

自分で点てた感想は・・「面白いけれど、(倉中さんに)点てていただいたお茶のほうがはるかにおいしい」と息子さん。「それはそうよ」とマダム。

最後に質疑応答の時間が設けられた。「すべての動きは正確に決められているのですか。流派はありますか、違いは?」「家庭でも日常的にお茶を点てるのですか?」「一般的なお茶会はほかにどんなことをするのですか?」など質問が出て、倉中さんはひとつひとつ丁寧に答えていく。

時間にして45分。たった45分とはいえ、新たな気づきでいっぱいの時間だった。




tea ceremony for Gion festival

「まったく初めてという方が多いので、とにかくわかりやすく説明するように心がけています」と倉中さん。作法を知らない外国人客にも気軽に楽しんでいただく、というのはもちろんだが、ただ表面的な経験では終わらせたくないという。「本物のお茶とはどんなものか――全部理解することは難しくても、茶道で大事にしている心をできるかぎり伝えたいと思っています」。

倉中さんがとくに大事にしているのが、季節にあわせた茶道具やしつらいの説明である。「今日はお客さまにいまの季節を楽しんでいただきたくて、このお道具を準備しました」と説明することで、「おもてなしの心」が伝わりやすい。黙っていれば、お客さまも気づかずに終わってしまうところを、「これは・・という意味です」とひとつひとつ丁寧に説明していく。「説明すれば、外国のお客さまも『なるほど!』とわかって喜んでくださいます」。自分の国ではそういう季節感をとりいれたおもてなしはない、とお国の話になることもあるとか。

Japanese garden

観光客が日本や茶道についてどれだけ知識があるか、理解しているかをみながら、毎回説明を工夫する。「ほんとうに、毎日がチャレンジ。新しいひととの出会いであり、自分にとって挑戦です」と倉中さん。

小さいころから茶道を志してこられたのかと思いきや、意外にも茶道との出会いは遅かったそうだ。大学を卒業後、銀行に勤務。ハードな毎日に流されるように自分を見失いかけていたとき、茶道の稽古を始め、心の落ち着きを取り戻したそう。「以前は『型通りするなんて』と思っていたんですよ。あらためてお茶の良さがわかりました」。そんな倉中さんだからこそ、お茶を知らない人の立場に立って、楽しみ方を教えることができるのだろう。

外国からのお客様を迎えたとき、ぜひ案内したい場所のひとつである。また、「お茶なんてしたことない」という10代~20代のかたにもぜひおすすめ。

Japanese sweets

*この記事は、元・日経新聞記者で、関西女性カレッジを敬されている相島としみ先生に寄稿いただきました。ありがとうございます!




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